誰ひとり取り残されないまちづくりの考え方【町民勉強会レポート】
有識者x自治体職員の超豪華ゲストと一緒にSDGs・気候変動を改めて考える町民勉強会の振り返りレポートです。
こんにちは、下川町の清水です。
先月号は、昨年開催されたイベント「しもかわぐるぐるマーケット」を「2030年における下川町のありたい姿」の視点で共有しました。
今月は、2月に実施された町民勉強会の様子をお届けします。
※この記事は下川町の広報3月号「ありたい姿探検記」の充実版です
【町民勉強会】今一度振り返ろう
~SDGs・気候変動 私たちにできること~
(2月19日 場所 コモレビ)
下川町の応援大使である藤野純一先生を講師に、さらにはゲストスピーカーとして高知県土佐町企画推進課SDGs推進室長の尾崎康隆さんをお招きして、SDGs・気候変動の町民勉強会を開催しました。
参加者はなんと15人を超え、真剣なまなざしを講師に向けていました。
藤野先生講演「ゼロカーボンとは?」
バケツで例えるゼロカーボン
ゼロカーボンをバケツを使って例えてみます。
バケツの漏れを塞ぐことは省エネです。隙間だらけの家にいくらエネルギーをいれてもなかなか温まりませんよね。
そのため、対策として隙間をなくすことに取り掛かります。冬は室内の熱の50%が流出する窓の対策など、住宅の高気密・高断熱化がバケツの穴をふさぐことにつながります。
次は、きれいな水(再生可能エネルギー)を注ぎたいですよね。どんな水を選ぶかによって、地域への影響が変わります。
特に日本の場合、化石燃料を使ってエネルギーを作り出しています。化石燃料のほとんどは海外から輸入しているため、お金はしもかわの外に出てしまいます。
下川町はエネルギーのうち、熱エネルギーは木質バイオマスによって約56%を自給しています。しかし、残りの約44%や、電気はほぼほぼ外に頼ってしまっている状態です。
もし、外に出てしまっている熱の44%、電気を地域内で作り出すことができた場合、しもかわにとっては豊かになるチャンスです。
最後に、バケツの大きさを見直すこともとても重要です。
暮らしに必要以上のエネルギーを使おうとしていないか、必要以上のエネルギーを作ろうとしていないかを考えることで、しもかわの器に合ったサイズになります。
こうして穴のない、丁度よいサイズのバケツの中にきれいな水を注ぐことができます。
この考え方を元にまちづくりを見直し、いかに地域を良く、豊かにするかがゼロカーボン・脱炭素です。
今こそ考えたい気候正義-Climate Justice
ここで出てくる大事なキーワードが「気候正義」です。
過去のありたい姿探検記でも取り上げてきましたが、世界中の科学者によりCO2排出が増えると気候変動が進行していることが明らかになり、近年の気温上昇の犯人は人間が出してきたCO2であることが決定づけられました。
毎年ニュースになる恐ろしい自然災害は世界各地で起こり、気候変動の影響で年々その恐ろしさは増しています。
また、気候変動の影響を最も身近に、日常の一部として捉えている世代は若い世代です。
しかし、気候変動の影響を多大に受けている地域・世代ほどCO2の排出量が多いでしょうか?
答えは否です
このように、気候変動がもたらす不公平さは、地域間・世代間の格差へと繋がっています。
これこそが気候正義-Climate Justiceです。
藤野先生が参加されたCOP27では、この気候正義が本格的に議論されました。
会場の外では若者たちが決死の覚悟でデモをし、とても力強いメッセージを残しました(エジプトのデモについて)。
また、COP27の成果物である「シャルム・エル・シェイク実施計画」16章62項目では、以下に関する内容が目立ちました。
・既に起こっている気候変動の影響への対応
・気候変動の影響を受ける生態系・生物多様性
COP27を受けて
このようなCOP27での議論や決まり事を受け、藤野先生は以下のようにまとめました。
・これからは推進/行動の時代
・政府以外のステークホルダーへの更なる期待(企業・自治体・団体など)
・ユース(若い世代)や先住民など、市民グループからの「人権なくして気候正義なし」の声
日本は2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする未来を目指しているため、それをいかにして足元、草の根で作り上げていくかが今後の鍵となります。
目標は世界共通:2050年までCO2排出実質ゼロ
上記で日本の目標について紹介しましたが、実は気候変動対策・ゼロカーボンの目標は世界共通です。
パリ協定の決まりごととして、2020年以降の温室効果ガス削減について、世界共通で平均気温上昇を産業革命以前と比べて2℃より十分低く抑えるという「2℃目標(努力目標1.5℃以内)」が掲げられました。
現在はCOP26により1.5℃目標で世界が合意したため、達成には「世界全体のCO2排出量を2030年までに約半減、2050年までに実質ゼロ」が必要だと、科学的に証明され、各国が目標を立てて進めている状況です。
しかし、先だって取り組めている国と、苦しんでいる国があるのは当たり前です。特に発展途上国、自然災害や紛争に苦しんでいる地域にとってはこの目標を目指して政策を立てるのは厳しいです。
よって、取り組めそうな国や地域が先陣を切ってCO2排出実質ゼロを達成することが大切になります。
また、2050年という時間軸に目が向けられがちで、その後のことはあまり言及されていないことも取り上げなければなりません。
気温上昇を1.5℃に下げるためには2050年以降もCO2排出実質ゼロを継続する必要があります。
そのため、CO2を排出しない、かつ吸収して帳消しにする仕組みをつくり、それが当たり前になるよう社会をまるっと変革しなければ、気温が1.5℃より上昇してしまうのです。
この考えを念頭に、どうしたらいいのかをもう一度考えてみましょう。
先進自治体の紹介
尾崎室長講演「四国の中心で”下川町愛”を叫ぶ」
土佐町は高知県で唯一SDGs未来都市に選定されている町で、藤野先生イチオシの自治体として、今回土佐町企画推進課SDGs推進室の尾崎康隆室長をゲストスピーカーとしてオンラインでお招きしました。
土佐町の尾崎さんは民間企業、県職員を経て、2019年から土佐町職員として活躍されており、あらゆる立場を経験された視点を活かし、土佐町のまちづくりをされています。
「誰ひとり取り残されない」まちづくりへのこだわり
ここでSDGs推進室について説明ですが、庁内横軸での推進体制となっており、各課の職員に兼任辞令を発令し、各課の施策との調整を実施しています。
この横軸を刺す体制はとても重要で、近年特に縦割り、分断という課題が取り上げられるようになっています。
自治体だけでなく、日本郵船をはじめとする企業も横軸を刺してSDGs、ESGの考え方を浸透させる動きが出ており、お手本ともいえる体制に会場内は感嘆の声が上がっていました。
あらゆる地域の水源地である土佐町の目指す姿は「永遠の水源地」であり、これををまちづくりの計画(第7次土佐町振興計画)の将来像に位置付けています。
水源に生きる町民ひとりひとりの個性を最大化することがまちの持続可能性となるという考えの基「SDGsと住民幸福度に基づく”誰ひとり取り残されない”持続可能なまちづくり」をミッションとしている土佐町の振興計画に会場は釘付けに。
というのも、第7次土佐町振興計画は「2030年の土佐町のありたい姿」を描きながら、それが「誰ひとり取り残されない」計画として体現されることを目指し、住民と共に丸2年かけて策定した計画です。
この計画、本編と副本でできていて、本編は意見ひとつ取り残されない仕様になっているなど、魅力が詰まっています。
というのも、町民の声を取り入れた本編になっていて、見やすい、伝わりやすい、そして計画の策定にあたり、ワークショップなどで出た意見を全て「地域のみなさんの声」として掲載しているのです。
思わず鳥肌が立った人は会場内で清水だけではないはずです。是非、是非!目を通してください。
また、ありたい姿を目指すためのそれぞれのゴールにはターゲット、インディケーターが紐づいているのですが、ここでもまた素敵ポイントが。
その他にも、誰ひとり取り残されないために、町の各分野の次世代リーダーで構成された土佐町SDGs推進会議で土佐町SDGsのモニタリングや計画の見直しをしていたり、若い世代の考えを可視化するためにオンライン参加型合意形成プラットフォーム「Liquid」の実証をしていたりと、勢い止まらぬ土佐町。
誰ひとり取り残されないまちづくりを目指し、常に変革し続ける、本当に考え抜かれた計画に会場は感動していました。
水源のまちを目指す
土佐町は、下川町にとっての森林のように水源を守ることをまちづくりの軸とするなど似た部分が多く、SDGsを取り入れる際に下川町の事例が参考になったため、昨年は下川町の視察ツアーに参加したところから尾崎さんと繋がることができました。
水源を守ることで地域にとっての「いいこと」となる可能性を見える化するため、土佐町は水源の実態をデータ化し、環境・経済・社会を統合し、維持するシステムをつくっています。
心に残るメッセージ
この尾崎さんの言葉が私含め、参加者の心に刺さり、誰ひとり取り残されないために何が必要かを見つめなおす機会になりました。
色んな視点での正義を大事にしたい
残りの時間で情報交換をしましたが、会場はスピーカー2人の人間性に惹かれ、すっかり尾崎さん藤野先生の虜になっていました。
ここから一部参加者から出た声を抜粋します。
今月は、SDGs・気候変動の勉強会の様子を一部紹介しました。気候正義など、「正義」という言葉がありますが、私たちも自分の「正義」をその都度見つめなおしながら、全体にとっての「良い」ことを考え、「誰ひとり取り残されない」まちづくりをしていきたいですね。